西谷善子ユース代表コーチに聞く IFSCクライミングユースアジア選手権2024レビュー
Photo : Indian Mountaineering Foundation・TSAF Sport Climbing
インド・ジャムシェードプルで現地時間11月14~17日に行われたIFSCクライミングユースアジア選手権。ユース日本代表が24個のメダルを獲得した大会は、トラブルの連続だったそうです。ユース代表を率いる西谷善子ヘッドコーチに話を聞きました。
プロフィール
西谷 善子 - NISHITANI Yoshiko
ユース日本代表ヘッドコーチJOC ナショナルチームコーチ、JMSCA強化副委員長。2008年から日本代表スタッフに加わり、現在はユース代表ヘッドコーチを務める。
――ユースアジア選手権、お疲れさまでした。24個のメダルを獲得した大会を振り返っていただけますか?
「ご声援、ありがとうございました。日本とジャムシェードプル間の移動にはおよそ2日間かかり、過去にあまり例がない長距離移動だったので、選手に負担がかからないかがまず心配でした」
――どのように移動しましたか?
「デリーの空港などインド国内で飛行機を2回乗り継ぎ、陸路はバスで3時間かけてジャムシェードプルに向かいました。2019年のバンガロール大会でも感じましたが、インドではとにかく人がたくさんいる国という印象を受けますね。ジャムシェードプルはビルが少なく、都会よりも田舎という感じでした」
――日本人選手たちのパフォーマンスは西谷さんの目にどう映りましたか?
「ユース世界選手権でメダルを取った選手たちが今回はうまくいかないことが少なくありませんでした。日本とは異なる暑さ、大会施設、大会運営など未整備の環境下に手こずった選手がいたはずです」
――惜しくも男子ユースAはボルダーとリードの両方でメダルに届きませんでした。
「特に暑さの影響から壁のコンディションが悪く、パフォーマンスを発揮するのが難しかったと思います」
――現地の気温は何度くらいでしたか?
「27、8度ほどだったと思います。とにかく直射日光が壁に当たっている状況でした。リードの場合は、男子ユースAの課題に使われていたホールドの一部が黒かったので、ホールドはかなりの熱さを帯びていました。最初に競技したユースBと比べると暑さはまったく違いましたね。直射日光を受けながら登らなくてはならず、日本以外にも同じポイントで落ちている選手がいました」
――暑さの他にも想定外の事態はありましたか?
「ボルダー競技時にタイマーが止まったり、何度も表示されなくなったりしました。途中から運営側が工夫して、表示されなくなったら瞬時に予備のタイマーとしてパソコンやタブレットを選手に見せながら進行していました」
――運営側も柔軟に対応したということですね。
「他にアップウォールも十分なキャパシティがありませんでした。タイミングによっては2種目が同時進行していて、アップする選手の数も多かったので、限られた広さの壁でアップする必要がありました」
――入念なアップができなかった選手もいたかもしれませんね。
「輸送に関しても問題がありました。バスの数が少なかったので、ホテルから会場までの移動も事前に言われていた時間通りにバスが来なかったり、予定よりもかなり早く出発したり。想定していたスケジュールに沿って進まないことが多かったですね」
――たくさんのトラブルがあったようですが、それでも金8個を含む計24個のメダル獲得は国別ランキングで1位。2位のインドネシアに倍以上の差をつけました。良い結果を残すことはできたのではないでしょうか。
「はい。スタッフの立場からするとユースアジア選手権は『うまくいかないことが当たり前』という感じでしたけど、初めての経験ばかりという選手も多いので、とにかく選手にとっては適応能力が求められた大会でした。結果を残している選手たちもいるので、環境は言い訳にできません」
――選手たちは環境も含めて楽しんでいた様子でしたか? それともつらそうでしたか?
「はじめは緊張したり環境に適応できなかったりする選手が何人かいましたが、最終的にはみんなが環境そのものを楽しんでいたように思います。近年のユースの国際大会は自分のカテゴリーの競技を終えるとすぐに帰国するようなスケジュールでしたが、今回は移動に2日かかるということである程度まとまって行動することが多かったんです。そのため会場には日本人選手がたくさんいましたし、彼らの応援の声が後押しになったのではとも感じています」
――スピードは女子ユースA以外に日本人選手が出場し、そのすべてでメダルを獲得しました(金2個を含む計7個)。
「(強豪である)中国勢がスピード種目に出場しなかったことでメダルを狙える可能性が高くなると考えていました。それでもこれほどの数のメダルを手にできたことは過去になく、昨年大会もメダルは1個だったので、選手たちにとって今後も頑張れるきっかけになったと思います」
――ユース世界選手権がある中で、ユースアジア選手権をどのような大会として位置づけていますか?
「もちろん重要な大会として位置付けています。これまでに述べたような突発的なアクシデントに対応し、国際大会での経験値を上げるという目的もあります。ユースアジア選手権を経て、選手たちは心身ともにタフになることが多いんです」
――ユース世代で海外の大会を経験できるのは貴重な機会ですよね。
「シニアと違い、1年の中でユース世界選手権とユースアジア選手権の2回しか国際大会に出られるチャンスがないですから」
――印象に残った選手はいますか?
「国際大会初出場にして初優勝を飾った石黒紗彩選手(ボルダー/女子ユースA)です。彼女は強化選手にも選ばれていなかった選手で、出場予定だった選手の辞退が重なってチャンスが回ってきました。そこでいきなり優勝を飾ったわけですから、インパクトがありましたし、あらためて日本の選手層の厚さを感じられましたね。2025年のIFSC国際大会の年齢移行の関係で、ジュニアカテゴリーの選手たちは今年がユースとして最後の年になるので、一人ひとりの意気込みや抱えている思い、大会での諦めない登りもとても印象に残っています。ジュニアの選手たちには、これまでチームをけん引してきてくれたことにとても感謝していますし、今回その姿を見ている下の世代の選手たちがユースの未来を担っていってくれるはずです」