24個のメダルを獲得したスポーツクライミングユース日本代表 強化の現状とは
Photo : Indian Mountaineering Foundation・TSAF Sport Climbing
2024年11月にインド・ジャムシェードプルで行われたユースアジア選手権で国別最多24個のメダルを獲得したスポーツクライミングのユース日本代表。将来有望な選手たちをまとめる西谷善子ヘッドコーチに、過去と現在の比較、強化の現状を聞きました。
プロフィール
西谷 善子 - NISHITANI Yoshiko
ユース日本代表ヘッドコーチJOC ナショナルチームコーチ、JMSCA強化副委員長。2008年から日本代表スタッフに加わり、現在はユース代表ヘッドコーチを務める。
――日本のユース世代は昔から国際大会で結果を残していますが、以前と今の日本人選手に違いは感じますか?
「ユース日本代表に選ばれた1年目はパフォーマンスを発揮できない選手が多かったのですが、近年は初めての国際大会でも表彰台に上がる確率が高まっているように思います」
――それはなぜだと考えますか?
「緊張はしているようなのですが、『この大会はメダルを取らなきゃいけない』という使命感のようなものを過去の選手たちの実績から理解していて、それを何とか達成しようとしてくれているように見えます」
――以前と比べて課題への対応に違いはありますか?
「ボリュームへの対応力は上がっているように思います。逆にクラシカルなルートに対しては日本国内で触れる機会が少なくなってきているためか、リードで細かいホールドが続きしっかり握り込んでいく動きを求められた際に勝てる選手が少なくなってきているように思います。一方でインドネシアやイランの選手は普段からホールドが充実していない環境下で登っているので、垂壁かつ細かいホールドが得意です。そこの差が今回のユースアジア選手権では見られました」
――性格面での変化は感じますか?
「おとなしい選手が多くなってきた印象はありますね」
――昔はユース選手たちをまとめるのがとても大変だったと伺っています。
「チームとして走り始めた当初は、選手が個人で活動することが主軸の中でチームとしての活動を入れていったので『なんでダメなんですか?』と言ってきたり、『自分はこれがしたい』といった自己主張ができていたりした選手が多かった印象です。最近は思いをダイレクトには言ってくれず、他の選手を通じて伝わってきたり、何かしらの行動を起こして考えが伝わってきたりして、自己主張が少なくなってきている気はします」
――ヘッドコーチとしては自己主張をはっきりしてくれたほうがいいですか?
「そのほうが何を考えているのか、何をしたいのかがわかりやすいです。でもそれはクライミングに限らず、近年の子どもたちの全体的な傾向だと思っています。もしくは、私の役割の中でチームマネジメントの比重が大きくなっているので、以前に比べて選手との距離が少し遠くなっている分、選手の声を拾えていないのかもしれないとも感じています。その部分に関しては、他のユースコーチがカバーしてくれているので、チーム内での選手とスタッフ間のコミュニケーションは取れていると思います」
――あらためて日本のユース世代の強さの要因をどう考えていますか?
「ベースとしてクオリティの高いクライミングジムが日本国内にたくさんあることが挙げられます。加えて最近はJMSCAとして強化練習会を増やしていて、うまくいっている手応えはあります。その一方で、他国もユース世代の強化を着実にしてきていて、日本が勝ちにくくなるという危機感もここ2、3年は感じています」
――他国の選手との差を感じる場面も増えてきましたか?
「課題の強度感が上がった時に勝ち切れない場面があると、特にユース世界選手権で感じています。強度感が上がった時の対応力は、ユースからシニアに上がった際にも苦戦するポイントです。強化方針を少しずつ変えていくことを考えています」
――強化練習会を活用したいですね。
「今でもいろいろなテーマに沿って練習会は開催していますが、より課題のテーマを明確にして、各選手の苦手を克服できる機会を設けていきたいです」
――「JMSCA次世代アスリート育成プロジェクト」もスタートしています。
「公募で手を挙げていただいた各地のクライミング施設をJMSCAの強化委員会が認定し、そこを育成/強化拠点として強化練習会を実施しているんです。プロジェクトにはJSC(日本スポーツ振興センター)からの委託費が出ているため、練習会が組みやすくなりました。定期的に選手とコミュニケーションを取れたり、選手の得意や苦手を把握できたりするので、今後もプロジェクトは継続させていきたいですね」
――委託費はどのように使われていますか?
「ルートセットの費用や施設利用料に充てられています。全国に19拠点があり(2024年12月時点)、各拠点を回って年に数十回は強化練習会を実施しています」
――以前は年に数回でしたよね?
「年に2回だったのが、委託費が出るようになった2023年以降は主要な大会のある期間を除いて毎月開催できるようになりました。ユースのスタッフ間でも役割分担できたり、時期によって種目を分けたりするなどプログラムは充実しました」
――開催回数が大きく増えましたね。
「ユース代表選手を全員集めて開催していたところが、各地域で練習会を開催できるようになったことで、選手が希望するテーマや日程に応じて参加できるようになりました。開催場所も関東に偏らず、東から西まで拠点がありますので、各地域の選手たちが参加しやすい形を取れています」
――ユース日本代表として目指すところは?
「ようやく活動の基盤となる強化練習会を頻繁に開催できるようになりました。これからもユース選手の“土台作り”を強固にしながら、シニアレベルにうまく対応できるような選手を輩出して、橋渡しをしていきたいです」