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選手の努力を潰すわけにはいかない── BJC2026チーフルートセッター・堀創が背負う責任

インタビュー公開日: 2026-01-29
選手の努力を潰すわけにはいかない── BJC2026チーフルートセッター・堀創が背負う責任

年に一度、日本一、そして世界へ挑む日本代表を決める大会、ボルダージャパンカップ。その舞台で選手たちの運命を左右するのが、ルートセッターたちの手によって生み出される「課題」だ。2026年大会で初めてチーフルートセッターを務める堀創は、選手としても長年BJCに挑み続けてきた。「選手の努力を潰すわけにはいかない」「負けたとしても『自分が弱かった』と納得できる大会にしたい」── その言葉の裏にある責任と覚悟を、大会開幕直前の今、紐解く。

(取材・文/CLIMBERS編集部)

Tsukuru HORI
Photo : JMSCA
プロフィール
堀 創 - Tsukuru HORI
国際ルートセッター(レベル4)/JMSCA公認A級ルートセッター

2011年に日本男子初のボルダリングW杯優勝を経験。引退後はルートセッターとして活躍し、2025年に国際資格のレベル4へ。同年の世界選手権でボルダーのチーフセッターを務めた。

――堀さんはBJCに2018年大会まで選手として出場、2019年大会からセッターとして参加しています。選手時代のBJCはどのような大会でしたか?

「W杯に出るためには基本的にBJCで結果を残すしかないので、毎年必死だった記憶があります。今もそうですけど、年に一回しかチャンスがなくて、そこでコケるとW杯に出られないんです。ただし僕の選手時代はIFSC(現World Climbing)のランキング上位に入っていればW杯の出場権が与えられていたので、ある程度は大丈夫でしたが、それでも国際大会のシーズンが始まる前の大事な大会というイメージでした。日本一を決める大会でもあるので」

――何歳の頃からBJCに出場していましたか?

「第1回大会から出ているので、18歳か17歳ですね」

――長年携わっているBJCで初めてチーフセッターを担当すると知った時の気持ちは?

「本当に昔からやりたいと思っていたので、うれしかったですね。もうちょっと早くやりたいなとは思っていましたけど(笑)」

――どのようにチーフセッターは決まりますか?

「JMSCAが公認ルートセッターのA級資格保持者から年間でどの大会を担当したいか希望を聞き、各大会に配置しています」

――堀さんはセッターの国際資格を持ち、世界選手権などでチーフセッターを務められるレベル4に位置しています。国際大会と国内大会でチーフの役割に違いは?

「昨年の国際大会はIFSCがセッターを3人選び、そこに開催国側が自国のセッターを加えましたが、BJCはチーフの他にB級の国内資格を持つセッターの計2人が事前に決まっていて、残りの人選はチーフが行います。また、僕の場合はどのスタイルの課題をどの壁につくるのか、どのくらいの完登数・ゾーン数がほしいかをあらかじめセッターチーム内で共有しています。これは国際大会でも同じです」

――チーフのやり方は人によって違う?

「はい。現地に入ってから決めていくチーフもいます」

――最終的にOKを出すのもチーフである堀さんの役割? または各課題の担当セッターに一任している?

「僕の場合は自分で決めたいといいますか、予選はお任せする時もありますが、準決勝と決勝は必ず一度は課題を触り、意見を聞きつつ最後にOKかどうか判断しています」

――セッターに転身している今、BJCにかける思いは?

「元選手としてこの大会の重みは理解しています。タイ順位が多かったり課題内容が偏ったりして選手の努力を潰すわけにはいきません。『こんな大会で代表権を決められちゃ困る』と言われないように、負けたとしても『自分が弱かったんだな』と納得できるように。強いやつがしっかりと上位に来て、世界に送り出せるような大会にしたいですね」

――タイ順位の話が出ましたが、複数選手のリザルトが同じで順位が並ばないように、選手のパフォーマンスを見て準決勝あるいは決勝の前に課題内容を微修正するのはよくある?

「よくありますし、それはやらないとダメですね。微修正しなかったことはないくらいです。リザルトがかぶるかかぶらないかは、課題の質で大体わかります。課題の中に落ちる要素というものがあって、簡単でも意外と落ちる課題って結構あるんですよ。そういう要素を織り交ぜながら、僕らセッターはリザルトがかぶらないようにコントロールしています。最後の微修正ですべてをコントロールしているんじゃなくて、事前のセット期間の段階である程度は完成させておいて、最後の微修正で難しさを調整しています」

――BJCはどれほど前から準備を始めている?

「セッター集めは大会の2、3カ月前、11月頃から大体の構想を練り始めて、12月に打診していきます」

――大会まで1カ月を切りました。課題の方向性は決めている?

「決めていますね。あとはセッターチーム内で意見をもらおうと思っています」

――(昨年までの)IFSCの主催大会では、IFSCから課題の方向性が示されると聞きました。BJCの場合は?

「確かにW杯では課題のスタイルについて要望が出ていましたが、BJCに関してはチーフセッターが決めています」

――「日本の課題は海外に比べると繊細でつくり込まれている感じがある」「海外大会の課題はいい意味で大雑把なものが多い」という選手の声をよく耳にします。堀さんはその点をどう感じますか?

「そうかもしれないですね。日本人セッターって結構つくり込みますから」

――日本人の性格なのかわかりませんが、細部までこだわる、物事を追求するような気質がある?

「ちょっとしたポジションなど繊細なギミックみたいなのはたぶん日本人セッターは好きだと思います。海外のセッターは大きな動きのほうをつくりたがるといいますか。海外のクライミング施設は壁が広いんですよ。なので大きい動きをつくりやすい。日本はジムがそんなに大きくないじゃないですか。その中で課題に難しさを見出すとなると、繊細な部分にリスクを設けていく。それに慣れているセッターが多いと、繊細な課題というものが多くなるんじゃないかなと思います」

――堀さんが考える課題の方向性がある一方で、BJCは日本代表の選考大会でもあります。国際大会を意識した課題も考えていますか?

「そこも意識していて、今回のチームには国際資格を持つメンバーに多く入ってもらいました(編注:堀創、平嶋元、水口僚、渡邉海人、Sergio Verdascoの5人)。全員が今年のワールドクライミングシリーズ(昨年までのワールドカップから名称変更)に参加予定なので、国際大会に近いクオリティの課題をつくれるんじゃないかと思います。スペイン人のセルジオは国際資格のレベル4を持っていて、今年はリードのセットがメインみたいですけど、ちょうど日本に来るタイミングがあって何か力になれないかという話があり、依頼しました」

――他に中島雅志さん、北江優弥さん、原賢伸さんもメンバーに入っています。

「僕と中島くんだけあらかじめ決まっていて、あとは声を掛けました。みんな登っても強いんですよ。それとなるべく若い世代を入れたい思いもあり、僕より年上なのは元さんだけなんです。中でも北江とハラケン(原賢伸)は若手の中でも非常に高いモチベーションがある2人です。国際大会でセットしている僕ら5人とのコネクションをつくることで、彼らはもちろんのこと今後の世代にも活きてくると思っています」